生命保険の「構成員契約規制」を解説|「身内への募集」はどこまでOK?違反リスクと圧力募集の境界線
- ほけんイージー編集部

- 11 時間前
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「自社の社員なんだから、付き合いで保険に入ってもらおう」
「社長の方針として、全社員にこのプランを推奨しよう」
企業内代理店(企業が母体となっている保険代理店)や、法人を開拓する募集人の皆様、このような安易な考えで勧誘を行っていませんか?
実は、生命保険における「身内(自社や関連企業の従業員)」への勧誘には、「構成員契約規制」という非常に厳格なルールが存在します。これに違反したり、その趣旨を履き違えて「圧力募集」とみなされた場合、業務停止命令などの重い行政処分を受ける可能性があります。
本記事では、代理店実務で絶対に避けるべき「構成員契約規制」のポイントと、現場で発生しがちなNG事例をわかりやすく解説します。
そもそも「構成員契約規制」とは?
まずは、この規制の基本と、よく混同される損害保険のルールとの違いを整理しましょう。
◆規制の定義と対象
生命保険における「構成員契約規制」とは、一言で言えば「保険代理店が、自分たちの『身内』に対して生命保険を募集することを制限するルール」です。
ここでの「身内(構成員)」とは、主に以下を指します。
代理店自身の役員・従業員
代理店の親会社・子会社・関連会社の役員・従業員
◆なぜ禁止されているのか?
「自分たちで保険に入るなら勝手ではないか?」と思われるかもしれませんが、金融庁がこの規制を設けている最大の理由は、「弊害防止措置(圧力募集の防止)」にあります。
会社の上司や人事権を持つ人間から保険を勧められた場合、従業員は「断ると社内の立場が悪くなるのではないか」と感じ、不本意ながら契約してしまう恐れがあります。このような、「業務上の上下関係を利用した押し売り」を防ぎ、被保険者(従業員)の選択の自由を守るために、この規制は存在します。
◆損保の「自己契約」とは別物
実務で最も多い勘違いが、損害保険の「自己契約規制」との混同です。
項目 | 損害保険(自己契約) | 生命保険(構成員契約) |
規制の焦点 | 契約金額のシェア | 圧力募集の有無・商品の種類 |
ルール概要 | 自社グループの契約保険料が全体の50%を超えてはならない。 | 原則として募集制限あり(特に貯蓄性商品)。第三分野は例外的にOKだが圧力は厳禁。 |
目的 | 代理店手数料を得るためだけの代理店設立(インハウス化)防止。 | 雇用関係を利用した「圧力募集」による従業員の不利益防止。 |
コンプラ担当者は、この違いを明確に現場へ伝える必要があります。
「募集してはいけない相手」と「販売できる商品」の境界線
では、具体的に「誰に」「何を」売るとアウトになるのでしょうか。
1. 「密接な関係を有する者」の範囲
規制の対象となるのは、代理店と「密接な関係」にある企業や人です。
当該代理店(自社)
親法人・子法人(出資比率50%超など)
関係法人(出資比率20%以上など、実質的な支配関係にある会社)
(銀行等の場合)融資先企業の役職員
これら企業の役職員に対する募集は、常に「圧力募集のリスク」をはらんでいると見なされます。
2. 販売NGの商品・OKの商品
ここが実務の最重要ポイントです。現在は規制緩和により、「全ての商品がダメ」ではありません。
原則NG・厳しい制限あり(第1分野・第2分野)
死亡保険(定期・終身)、養老保険、個人年金保険など
理由: 保険料が高額になりがちで、貯蓄性(資産形成)の側面も強いため、「会社のために契約しろ」という圧力がかかった際の被害甚大であるため。
例外的にOK(第3分野)
医療保険、がん保険、介護保険、傷害保険など
理由: 自分の身体を守るための必要性が高く、保険料も比較的少額であるため。
注意: 医療保険などに付帯することができる死亡保障特約についても保険金額によっては構成員契約規制の対象になる場合があります。
ありがちな違反事例とNGトーク
コンプラ担当者が最も警戒すべきは、現場の募集人が「良かれと思って(あるいはノルマのために)」行ってしまう以下のような行為です。これらは「特別の利益の提供」や「威迫・業務上の地位の不当利用」に該当する可能性が高い危険な事例です。
NG例①:上司の威光を利用する(威迫・地位利用)
× 募集人の発言「今回の医療保険キャンペーン、社長の肝いりなんだ。各部署で加入率を見ているから、君も協力してくれよ。まさか断らないよね?」
解説: 明確な圧力募集です。「加入しないと不利益がある」と暗に匂わせる行為は、たとえ販売可能な「第三分野(医療保険)」であっても、募集行為の公正さを欠くため処分対象となります。
NG例②:人事評価や業務とバーターにする
× 募集人の発言「この保険に入ってくれたら、今度の人事評価で考慮するよ」「融資の件だけど、この保険への加入が稟議を通す条件だと思ってほしい」
解説: 優越的地位の濫用の典型例です。銀行等代理店だけでなく、一般事業会社の企業内代理店でも、人事部出身者が募集人をしているケースなどで起こり得ます。
NG例③:非公開情報の無断利用
× 募集人の発言「(人事データを見て)君、もうすぐ子供が生まれるし、給料も上がったんだから、今の保険じゃ足りないでしょ?見直しプラン作ったよ」
解説: 従業員が会社(人事部)に提出したプライバシー情報を、本人の同意なく保険募集の目的に流用することは、個人情報保護法および保険業法上の監督指針に違反します。
代理店として整備すべき管理態勢
このような違反を防ぐために、代理店はどのような仕組みを作るべきでしょうか。
1. 顧客属性の確認(自動チェック)
システム上、募集対象者が「自社グループの役職員(規制対象者)」であるかどうかを自動的に判別できるフラグを立てるのが理想です。
「同姓同名」などのミスを防ぐため、社員番号等での突合管理が推奨されます。
2. 「同意」の取得と記録(自発性の証明)
規制対象者(グループ社員等)から申込みを受ける際は、通常の申込書に加え、以下のような内容を含む「確認書(同意書)」を別途徴求することが重要です。
「会社や上司からの指示・強制ではなく、自らの意思で加入を希望します」
「保険加入が、人事考課や業務上の取引に影響しないことを理解しています」
この記録を残すことが、万が一「圧力があった」と指摘された際の、代理店を守る防波堤となります。
3. 独立した苦情窓口の周知
「上司に無理やり入れられた」という不満は、直属の上司には言えません。
社内のコンプライアンス部門や、外部のホットラインなど、募集人を通さずに通報できる窓口を案内し、パンフレット等に明記しておくことが、自浄作用のある組織として評価されます。
まとめ:従業員を守ることが、代理店を守る
保険業法の構成員契約規制は、「身内なら簡単に売れるだろう」という代理店の甘えを許さないためのルールです。
生命保険は、損保の「自己契約」とは違う(圧力防止がメイン)。
「医療保険ならOK」と油断せず、勧誘方法が強引でないか常に監視する。
「社長の顔を立てる」募集は、結果として会社のリスクになる。
これらの原則を徹底し、従業員(被保険者)が本当に必要とする保障を、納得して選べる環境を作ることこそが、企業内代理店が長く生き残るための唯一の道です。
