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結局、何が便宜供与で何が便宜供与ではないのか?

  • 執筆者の写真: ほけんイージー編集部
    ほけんイージー編集部
  • 2 日前
  • 読了時間: 8分
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保険業界における便宜供与とは

 保険業界における便宜供与の規制は、保険会社と保険代理店間の取引の適正性、および保険募集の公正性を確保するため、「保険業法」および業界団体のガイドラインによって厳格に定められています。焦点となるのは、保険会社が保険代理店に対し、その見返りとして自社商品の優先的な推奨を誘引するような過度な利益供与を防ぐことです。


 保険業法が定める「特別の利益の提供の禁止」は、金額の多寡にかかわらず、保険契約者や被保険者への不当な優遇措置など、契約の公正性に影響を及ぼす行為を包括的に禁じており、これは募集人(代理店)による行為も規制しています 。


 特に、保険会社が保険代理店(兼業事業者を含む)に対して行う物品の購入、賃借、顧客紹介、費用負担などの取引については、「過度の便宜供与の防止」が強く求められています。損害保険業界および生命保険業界を通じて、これらの取引の公正性を担保するため、一般に「必要性、適正性、公平性、合理性」の四原則を遵守し、客観的な説明責任を果たすことが重要な枠組みとなっています。


損害保険業界における規制

 損害保険業界における便宜供与規制は、主に保険会社と保険代理店、特に兼業事業を行う代理店との間の取引の適正性を確保することに焦点を当てています。これは、保険会社が特定の代理店へ過度な利益を提供し、その見返りとして自社商品の優先的な取り扱いを誘引することを防ぐためです。この適否の判断の目安となるのが、日本損害保険協会が定める「四原則」です 。


● 過度の便宜供与を判断する「四原則」

 損害保険会社が代理店と取引を行う際、その取引や支援が社会通念に照らして客観的な合理性をもって説明できるかどうかが問われます。この合理性を判断するために、以下の四原則が用いられます 。


  • 必要性: 当該の取引や支援が、保険会社の業務運営上、不可欠であるか、または正当な目的があるか。代理店からの要請が主目的となっていないことが重要です 。


  • 適正性: 取引の価格、品質、頻度などが一般的な市場水準に照らして妥当であるか。貸与や購入の場合、近隣相場と比較して過度に安価または高価ではないか、社内ルール(買い替え基準など)を遵守しているかが検討されます 。


  • 公平性: 取引先の選定プロセスが公正かつ透明であり、特定の保険代理店に継続的かつ過度な支援が集中していないか。同様の条件で他代理店にも申込みや利用機会が提供されているかが問われます 。


  • 合理性: 上記の必要性、適正性、公平性の要素に関する判断が、論理的・客観的に対外的な説明ができるか。例えば、紹介プロセスが文書化されているか、保険会社が支出する理由が広報方針と一致しているかなど、内部統制の観点からも判断がなされます。内部ルールを逸脱した不適切な取引は、合理性を欠くと判断されます 。


損害保険業界における具体的な事例

 ここでは具体的に便宜供与に該当しないと思われる事例、すると思われる事例を紹介します。本校で取り上げるものはあくまで例であり、実際には個別のケースによって判断が変わることもありますので参考ととらえてください。


便宜供与には該当しない例


  1. 計画的な社用車買い替え

    業務運営計画に基づき、老朽化に伴う必要な社用車を買い替え、複数の自動車販売業を兼業する代理店から競争入札を行い、市場価格での取引を実施した。公平性と適正性が担保されている 。


  2. 適正な利用料での施設貸与

    代理店からの会議室利用要請に対し、近隣のレンタル会議室の市場相場と比較して妥当な適正な利用料を徴収して貸し出した。利益の不当な移転がなく、適正性が満たされる 。


  3. 広報方針に基づく地域イベント協賛

    代理店主催の地域イベントへの協賛金拠出が、損保会社の広報方針と一致し、かつ社内ルールに定める金額・頻度の範囲内で実施された。支援の理由が客観的に説明できる 。


  4. 高品質なサービスを持つ修理工場の紹介

    自動車保険契約者に対し、価格・品質が一般的な水準に照らして優良な、代理店運営の修理工場を、公正な基準に基づき紹介した。契約者利益の保護という「必要性」と「適正性」を満たしている。


  5. 研修目的の物品購入

    代理店向けの研修に使用する物品を、業務運営上の必要性に基づき、市場価格で、公平な選定プロセスを経て代理店関連事業者から購入した。


❌ 便宜供与に該当する例


  1. 業務上不必要な車両の増車購入

    自動車販売業を兼業する代理店の決算期に合わせ、業務運営上購入する必要性のない社有車を増車した。業務上の「必要性」を欠き、代理店への過度の利益供与と判断される 。


  2. 無償または低額での敷地貸与

    代理店からの車両展示会の要請に対し、社内の駐車場を一般的な市場価格と比較して無償で貸し出した。市場価格との「適正性」が認められず、利益の不当な移転にあたる 。


  3. 低品質なサービス提供者の紹介

    自動車保険の契約者に対し、一般的な水準に照らして低い品質であったにもかかわらず、当該代理店運営の修理工場を紹介した。契約者の利益を害し、「適正性」の原則に反する 。


  4. 低品質なサービス提供者の紹介

    自動車保険の契約者に対し、一般的な水準に照らして低い品質であったにもかかわらず、当該代理店運営の修理工場を紹介した。契約者の利益を害し、「適正性」の原則に反する 。


  5. 黙示的圧力による取引斡旋

    代理店からの黙示的な圧力を受け、当該代理店の取引先の高額物品(ホールケーキ等)の購入を営業店のメンバーに斡旋した。業務上の「必要性」が皆無であり、便宜供与に該当するおそれが極めて高い 。


生命保険業界における規制と具体的な事例

 生命保険業界においても、顧客の適切な商品選択の機会を確保するため、保険会社から保険代理店等に対する過度の便宜供与の防止が求められています。損害保険業界で用いられる「四原則」(必要性、適正性、公平性、合理性)と同様の実質的な判断基準が適用され、特に自社商品の優先的な取扱いを誘引する行為が厳しく規制されます。


便宜供与には該当しない例


  1. 研修講師の外部委託

    比較推奨販売への影響がない前提に、特定の保険募集人を対象とする教育・研修を外部講師に依頼する。業務の質向上という必要性と、優先推奨を誘引しない公平性が認められる。


  2. 市場価格でのグループ会社間取引

    保険会社のグループ会社が、代理店と市場相場に基づいた適正な価格で物品やサービスを取引する。不当な利益移転がなく適正性が担保される。


  3. 出向者の業務範囲限定

    保険会社から代理店への出向について、出向者が保険募集に関する業務に一切従事せず、専らバックオフィス等の一般業務のみを行う。出向が便宜供与として機能するおそれを回避している。


  4. 代理店へのITシステム提供(普遍的提供)

    全ての代理店に対して、業務の効率化を図るために一律の基準に基づき、保険会社独自のITシステムやツールを提供する。業務上の必要性公平性が認められる。


  5. 社内規程に基づく事務手数料の支払い

    代理店が行う事務作業の対価として、あらかじめ定められた合理的な社内規程に基づき、客観的に妥当な水準の手数料を支払う。業務の適正性が担保される。



❌ 便宜供与に該当する例


  1. 販売実績に基づく研修の優遇

    便宜供与(研修支援など)の実績に応じて、当該代理店の保険募集人の社内評価を優遇する。これは自社商品の優先的な取扱いを誘引する便宜供与にあたる。


  2. 自社商品の優先推奨を条件とした便宜供与

    代理店に対し、今後新たに商品を取り扱うことや、当該商品を優先的に推奨すること等を理由に、過度の便宜供与を求める。顧客の適切な商品選択の機会を阻害するおそれが高い。


  3. 不適切な人的支援(出向)

    保険会社が代理店に対し自社の役職員を不適切な目的で出向させ、当該出向が出向元商品の優先的な取扱いを誘引する過度の便宜供与として機能する。


  4. グループ企業を通じた特定の経済的利益提供

    保険会社のグループ会社が、特定の代理店のみに対し、市場価格と比べて不当に有利な条件で金銭を含む経済的利益を提供する。代理店への間接的な利益誘導と判断される。


  5. 代理店からの不適正な要請への対応

    代理店から優先推奨を交換条件とした過度の便宜供与の要請があったにもかかわらず、保険会社がこれを詳細に検証・指導することなく、結果的に便宜供与に至った。要請行為自体が不適正事案として適切な管理・指導が必要。


まとめ

 保険会社と保険代理店間の便宜供与の適否は、保険業法上の「特別の利益の提供の禁止」の精神に基づき、その行為が「自社商品の優先的な取扱いを誘引するものではないか」という実質的な公正性の観点から判断されます。


 損害保険業界、生命保険業界の双方において、代理店に対する物品の購入、役務の提供、人的支援などの取引が過度の便宜供与と見なされないよう、「必要性、適正性、公平性、合理性」の四原則を、全ての取引および支援策の意思決定プロセスにおいて厳格に適用する必要があります。特に、業務上の必要性や合理性を欠く取引、特定の代理店への支援集中、または販売実績を優遇するような便宜供与は、優先的取扱いの誘引と判断されるリスクが極めて高いことを認識し、内部統制部門による事前審査と文書化体制の強化が求められます。


 コンプライアンス体制の維持には、これらの法的・業界的規範に対する継続的な教育に加え、全ての取引計画や支援策について、公正性、客観性、対外的な説明可能性の観点から総合的に適否を判断する審査体制の確立が不可欠となります。

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