【2026年8月最新】金融庁パブコメ結果から読み解く「ハ方式」廃止と保険代理店が取り組むべき比較推奨販売の実務対応
- ほけんイージー編集部

- 30 分前
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日本国内の保険市場、とりわけ複数の保険会社の商品を取り扱う乗合代理店における販売手法が、歴史的な転換点を迎えています。金融庁は、保険業法施行規則および「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案に対するパブリックコメントの結果を公表しました。
金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」https://www.fsa.go.jp/news/r8/hoken/20260828/01.pdf
本改正の施行および適用日は令和10年(2028年)3月1日と設定されており、実務上の体制整備期間として一定の猶予が設けられています。しかし、顧客の最善の利益を図るという根本趣旨に鑑み、当局は施行日を待たず速やかな実務対応を求めています。
本記事では、公表された当局の回答を深掘りし、保険代理店が直面する構造的課題と、事業継続のために具体的に講じるべきシステム改修や業務フローの再構築について網羅的に解説します。
なぜ「ハ方式」は廃止されるのか?背景にある構造的課題
これまで乗合代理店における比較推奨販売においては、保険業法施行規則第227条の2第3項第4号ハに基づく、いわゆる「ハ方式」が広く用いられてきました。これは、「当社が当該保険会社の事務手続きに精通しているため」といった代理店側の都合を推奨理由として認める例外規定でした。
代理店都合の推奨から生じる「利益相反」の排除
今回の改正でこのハ方式は完全に廃止されます。最大の理由は、事務手続きの簡便さなど売り手側の論理を優先するハ方式が客観性に欠け、「顧客にとって最適な商品を選ぶ合理的な根拠」になり得ないという根本的な矛盾にあります。改正金融サービス提供法が求める「顧客の最善の利益」に照らし合わせたとき、ハ方式は制度として許容されない限界に達していました。
見えざるインセンティブ競争から価値提供競争への転換
ハ方式の廃止が狙うより深層の政策的意図は、損害保険市場などに深く根付いていた構造的課題の是正です。これまで、保険会社からの販売手数料ポイントの優遇や各種営業支援といった「見えざるインセンティブ」が、代理店の推奨判断を歪めてきた実態がありました。
今後は、手数料水準にいっさい影響されることなく、純粋に顧客の意向に沿った適切な推奨が行われていることを証明し、事後検証できる客観的な態勢の構築が不可欠となります。
金融庁が求める「実効的な比較推奨プロセス」とは
パブリックコメントに寄せられた懸念に対する金融庁の回答からは、今後の比較推奨販売において代理店に求める「あるべき姿」が明確に浮かび上がります。
意向把握の徹底と「恣意的な誘導」の絶対的禁止
金融庁は、「顧客の意向を確認していることを装い、実質的には代理店又は保険会社の都合に基づく恣意的な誘導を行うことは適切ではない」と極めて強いトーンで牽制しています。募集人は情報格差を利用するのではなく、専門知識を活かして顧客自身の「適切な意向形成」を促すアドバイザーとしての振る舞いが義務付けられます。
形式主義ではない、合理的な選定・推奨理由の明示
ハ方式の喪失により、「なぜその商品を比較対象として選び、なぜ推奨するのか」という理由を、顧客の意向と論理的に結びつけて説明(理由の明示)しなければなりません。
ただし、金融庁は実務への配慮も見せています。長時間をかけて無数の商品を並べることを強要しているわけではなく、短時間での説明であっても「客観的で合理的な絞り込みのロジックが確実に存在し、事後検証できること」を求めています。
【業態別】柔軟な体制整備のあり方
金融庁は「一律かつ画一的な規制」の適用を否定し、業態や業務特性に応じた柔軟な体制整備を容認しています。
代理店の形態・取扱種目 | 顧客の購買特性 | 比較推奨プロセスの要件と実務的アプローチ |
生命保険・企業向け包括保険 | 長期的な保障、高度なリスク管理、詳細な商品比較 | 複数商品の綿密な比較表の提示、詳細なヒアリングに基づく意向把握と絞り込みプロセスの厳格な管理・記録。 |
自賠責・自動車保険(専業プロ代理店) | 価格競争力、補償内容のバランス、事故時の対応力 | 「保険料を抑えたい」「弁護士特約をつけたい」等の意向に基づき、合理的な基準で複数社からスクリーニング。 |
ディーラー等の兼業代理店 | 納車時の簡便な手続き、ワンストップの利便性 | 車両購入と一体化した利便性のニーズを意向として引き出し、それに合致する特定社を推奨する論理的帰結の体系化。 |
代理店が具体的に何をしなければならないか(実務対応チェックリスト)
令和10年(2028年)3月1日の適用に向け、乗合代理店は単なるマニュアルの文言修正にとどまらず、業務プロセス全体の抜本的な再構築に着手しなければなりません。金融庁の回答から読み取れる、乗合代理店に求められる8つの具体的対応(実務対応チェックリスト)を整理しました。
① 社内規則・体制の整備
比較推奨販売の一連のプロセス(意向把握、重視事項の確認、提示・推奨基準、説明方法、記録・検証方法)を社内規則として明文化する。
一部署限りのマニュアルではなく、組織として決定手続きを経た規則とする。
本部主導でフランチャイズ加盟店に共通プロセスを適用する場合は、内容が顧客本位に資するよう設計・運用・検証・見直しを行う。
各募集人・各店舗への教育、管理、指導体制を徹底する。
② 意向把握プロセスの見直し
顧客からの「お任せします」等の発言があっても、必ず追加で重視事項(補償内容・保険料水準・特約等)を確認するステップをフローに組み込む。
アンケートやフローチャートを活用する場合、設問・選択肢・表示順が「特定の保険会社への誘導」にならないよう設計する。
意向は変化しうることを前提に、当初意向と最終意向のギャップ、変化の経緯を記録する。
③ 取扱商品範囲の明確化
委託契約や覚書で取扱商品の範囲を明文化し、取り扱えない商品が誤って比較対象から漏れたり、逆に提案されたりしないよう保険会社と連携管理する。
新規募集停止や委託解消を予定している保険会社がある場合、対象契約・時期・既契約対応の範囲を明確化しておく。
④ 提示・推奨理由の「言語化」
各募集人が「なぜその商品を勧めたのか」を、保障内容・保険料水準・特約・免責等の客観的事項に分解して説明できるようにする。
「事故対応が良い」といった抽象的理由は、受付時間やロードサービス内容などの具体項目に置き換える。
【実務ヒント】 代理店都合の理由は厳禁です。例えば、「健康割引の適用要件を気にせず、シンプルな医療保険に入りたい」という顧客に対し、「〇〇生命の『〇〇医療』という商品は健康状態による割引制度を含まない分、基本の医療保障が手厚く、お客様のニーズに合致する」といったように、客観的な商品特性と顧客意向を論理的に結びつけるスキルが必要です。
⑤ 比較ツール・システムを使う場合
保険料の一覧表示だけで完結させず、補償内容等の契約条件も含めて顧客が判断できる説明を加える。
システムの選定ロジック、比較対象、表示順序が、特定の保険会社への誘導になっていないか自社で確認・検証できる体制を持つ。
⑥ 記録・証跡の整備
意向把握の結果、提示・推奨した商品、その理由、顧客への説明内容の概要を、事後的に検証可能な形で記録・保存する仕組み(CRM/SFA等の改修)を作る。
保存期間や様式は、自社の規模や業務特性に応じて社内規則で定める。
⑦ 継続契約対応の見直し
満期案内の際、「前回と同じ保険会社でよいか」を安易な出発点にしない。既契約の保障内容・保険料水準を確認し、新商品・特約・保険料変動等があれば説明する。
顧客の主体的判断のみで継続が選ばれた場合と、代理店が絞り込みを行った場合の扱いをフロー上で明確に区別する。
⑧ 権限明示の徹底
取扱保険会社の一部のみを明示する運用は不可。全取扱会社を適切に明示する。
まとめ:単なる法令遵守を超えた「代理店の価値再定義」へ
金融庁による今回の規則改正は、日本の保険代理店業界に対して、見えざるインセンティブに依存した旧来の商慣行からの完全な脱却を迫る決定的なマイルストーンです。
システム投資や業務フローの再構築など、短期的には極めて重い実務負担が発生します。しかし長期的には、各代理店が自社の強み(専業代理店の高度なリスクコンサルティング能力や、兼業代理店のワンストップ利便性など)を最大限に活かし、顧客ニーズに最適化された独自の比較推奨プロセスを設計する好機でもあります。
2028年3月の完全施行に向け、代理店は単なる「法令遵守のためのチェックリスト消化」にとどまらず、顧客の最善の利益を追求するフィデューシャリー(受託者責任)・モデルへと進化することが強く求められています。


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